中毒
7月12日(土)22:00。O石に電話してみる。
─もしもし。
─お…お…おう、どうした?
─何、寝てたの? 悪かったね。先週末はどうだったよ?
─おう、寝てた。先週末ね、ヨメさんと行ったよ。
─ははは。やっぱり行っちゃったのね。お馬鹿だね~。で?
─釣れた。
─ヨメさんが? マジで? すげーじゃん。
─巻き込み大成功。
─やるねぇ。…何かそっち、バイクの音がしない? 今どこよ?
─あ、コンビニ。コンビニで寝てた。
─どういうこと?
─川から帰ってくるところだったんよ。今、前に寄ったサークルK。
─え゛。今日も行ってたの? サークルKって、まだ全然帰ってきてないじゃん。

─今日はね、目茶目茶釣れた。
─どれぐらい?
─6匹。アマゴ3のイワナ3。
─すげーじゃん。川でやり始めて3回目で6匹はなかなかのもんよ。
─だろ? 今日は良かった。…なぁ、ミッチー、明日一緒に行かない?
─は? いいけど、もう22時過ぎだろ? 今から帰ってきて、また行くか?
─いや、もう帰るの面倒臭くなってきた。
─出たっ。車中泊っすか?
─ははは。
─完全にイっちゃってるね~。分かった分かった。明日6時半に出る。8時過ぎに着くから、連絡するわ。
そんな会話の12時間後、ボクらは開田高原の渓を釣り上がり始めた。ヤマトイワナで知られる渓である。が、前日散々叩かれているようで、メジャーなポイントからは全く反応が無く、あってもフライへの出方が厳しい。出ても乗らず、を何度か繰り返す。
─そこ、やってみない? 出るよ、多分。FFMはまず狙わないし。
─そこって…そこ? その枝の下?
─そう。流れが巻いてるでしょ。
─え゛、これかなり難しくない? 横から通すってこと?
─そう。こんだけスペースありゃ何とかなる。
─え゛ー、こりゃムリムリ。ミッチーやっていいよ。
─え、いいの? 釣っちゃうよ?
─釣られてもいい。
…
─あぁー。マジで出たぁ…。

(木曽水系全般でよく見られるニッコウとの混血種)
末川本流の上流域に場所を変え、雄叫びとともに弟子が初ヤマトイワナを手にした時、既に時計は20時を指していた。この集中力、忍耐力、執着心。今週末も行く、という中毒患者の弟子が師匠を超える日は遠くない。
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