カラフトマス症候群2008 2日目
朝4時のオホーツク海。
30人ほどだろうか、等間隔に並んだ人の列の端に立ってみる。

スプーンを遠投しているルアーマンが数匹上げる。が、フライのキャスティングレンジには待てど暮らせど群れが入ってこない。7時半。殆どキャストしないまま、一旦ホテルに戻ることにする。まだ焦ることは無い…。
ホテルをチェックアウトし、羅臼に到着したのが9時半。
昨年の経験から、フライタックルで臨む場合、知床半島の東岸側のほうが良さそうだという感触を持っていた。羅臼から半島の東岸沿いを北上し、太平洋に注ぐ小河川の河口にカラフトが寄っていないか調べていく。…が、群れは見えない。ブラインドでキャストし始めるしかない。
…孤独な作業である。

ふと気配を感じる。海面に目を凝らすと、波間から不規則な三角形がパラパラっと現れる。鰭だ。
心の叫びを飲み込み深呼吸をして、キャスト態勢に入る。群れの数メートル奥に毛鉤を打ち込み、ゆっくりと引いてくる。…出ない。ふうっと大きく息を吐き出す。群れが動く気配は無い。第2投。…やはり出ない。カラフトマスは気まぐれである、というのが一昨年得た教訓である。根気良くやるしかない。
…10数投目。
ラインを引く左手に、クンと引っ掛かったような感触の直後、ガツンという強烈な衝撃が走り、一気にロッドが撓む。よっしゃ、来たっ。2年ぶりのこの感触は、やはり凄まじい。ハハハ、これが味わいたくてここまで来たのである。ラインが凄いスピードで海面に吸い込まれていく。
…ブチっ。…あぁぁっ…。
12時。先ほどの合わせ切れ以降、フライへの反応が激減している。
ふと気付くと、齢60の頃かと見える地元の漁師風の小柄なオッサンが隣に立っている。このオッサンを取り合えず「仙人」と呼ぶことにしよう。この仙人の釣りが実に圧巻であった。
何気なく投じた(ように見えた)1投目からヒット。凄まじい合わせと迷いの無い寄せ方で、一匹目をまさしく秒殺。2投目もヒット。で、秒殺。おいおい、どうなってんだ…? 3投目もまた秒殺。目が点である。カラフトマスよ、少しは頑張れ。
その早過ぎる寄せのせいか、群れはやはり動かない。紅イカ仕掛け恐るべし。あれよあれよという間に10数匹のマスがまさしく虐殺される。酷い釣り方と言えばそうだが、釣るということに対する潔さがあるような気もしてくる。ボクもヨメさんも開いた口が塞がらない。
早くも片付け始めた仙人が声を掛けてくれる。強烈な訛りのせいで言ってることの半分も理解できなかったが、フライじゃ難しいよ、という趣旨だった。名古屋から来たというと、このサカナやるよ、オレはいつでも来られるんだから、とも言ってくれる。いや、いいんです、釣るのが楽しみで来てますから。遠慮しなくていいよ、と言う人懐っこそうな笑顔が印象的であった。
仙人と入れ替わりで、やはり地元の釣り人と思しき2人が入ってくる。仙人に10数匹抜かれたにもかかわらず、まだ背鰭はパタパタと見えている。同じ仕掛けを使う新しい2人には、だが全く釣れる気配が無い。想像したとおり、やはり仙人は別格だったのだ。
…しかし、である。
他人はともかく、こうもフライへの反応がないのは全くもって予想外。いつの間にか開始から既に5時間が経っている。タナ・リトリーブ速度・フライと、変数と思われるものは全部いじってみたが、鉤掛かりしたのはあの一度だけ。見える以上サカナがいることは確実なのである。どうなってるんだ、どうなってるんだ、と小声で繰り返している自分に気付く。
あと一回だけ、と続けてもう30分にもなる。15時半、ゲームオーバー。
無念というより、キツネにつままれたような気持ちである。これから阿寒湖へ160kmの移動、ということはつまり今年はカラフトマスに撃沈させられたということを意味するが、そのことがまだ受け入れられない。運転していても、頭の中の海にカラフトマスの背鰭が現れる。フライのせい? リトリーブのせいなのか…? カラフトマスに対する執着がこれほどまで強くなっていることが我ながら意外である。
18時半。阿寒湖到着。
気持ちを切り替えて、明日は朝夕のマズメに阿寒川のレインボー、昼間は家族で観光である。シケーダで釣るレインボーはNZ以来。これもまた今回の楽しみの一つである。
…と、自分に言い聞かせる。
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